スヴァールバル世界種子貯蔵庫

貯蔵庫の出入口
貯蔵庫内部の様子

スヴァールバル世界種子貯蔵庫(スヴァールバルせかいしゅしちょぞうこ、Svalbard Global Seed Vault)は、ノルウェースヴァールバル諸島最大のであるスピッツベルゲン島に位置する種子銀行である。現代版「ノアの箱舟[1]とも称する。正式名称は「あらゆる危機に耐えうるように設計された終末の日に備える北極種子貯蔵庫」[信頼性要検証][1]

概要

ベント・スコウマン (en:Bent_Skovmand) が提唱し[2]2008年2月26日ビル・ゲイツ主導のもと、地球上の種子を冷凍保存する世界最大の施設[3]がスピッツベルゲン島の中心地・ロングイェールビーン近郊にて操業開始した[4]

施設の趣旨は、今後さまざまに予想される大規模で深刻な気候変動や自然災害、(植物の)病気の蔓延、核戦争等に備えて農作物種の絶滅を防ぐとともに、世界各地での地域的絶滅があった際には栽培再開の機会を提供することである。

地球温暖化の影響

永久凍土層に築いた地下貯蔵庫は当初設計により最大300万の種子の保存を前提にし、人工的に温度をマイナス18~20°Cに保つ。万が一、冷却装置が故障した場合にもマイナス4 °Cを維持できる環境に置かれている[5]。また、地球温暖化が進んで海水面の上昇が起こった場合にも影響を受けることの無いよう、貯蔵庫は海抜約130mの岩盤内部約120mの地点に設けられた[6]。ただし、地球温暖化が想定外のスピードで進んだ影響で意外にもろすぎることが明らかになった[7]。そのため、緊急の工事が行われている[7]

ノルウェー政府はこれを「種子の箱舟計画」と称し、100ヵ国以上の国々の支援を受けて具体化した。なお、今後の運営は2004年に設立された独立国際機関グローバル作物多様性トラスト(GCDT Crop Trust (Global Crop Diversity Trust[注 1]によって行われる[8]

評価と課題

コミュニティ単位の種子貯蔵を進める民間団体から[8]、冷凍保存しても生育環境が変わると作物の収穫ができるか不確実であること、また国連環境開発会議(UNCED)(リオデジャネイロ会議) と生物多様性条約(CBD)の認めたとおり、農業者が種子を入手できない遺伝子銀行の限界が未解決である点、大規模停電に備えた施設の脆弱性評価など不確実性の指摘がある[9]

タイム誌は2008年の発明ベスト50の6位にスヴァールバル世界種子貯蔵庫をランク付けしている[10]

2009年2月26日に開設1周年を迎え、記念式典で日本人彫刻家田辺光彰よりイネの原種の籾 (もみ) をかたどった鋳造彫刻「THE SEED 2009 - MOMI IN SITU CONSERVATION」[注 2]が寄贈された。

運用2年を経た2010年に保存種子は50万種に達した。目標は450万種に改訂され、1品種当たり平均500粒を保存するという[13]。発芽率を維持するため、20年毎に種子を入れ替える[要出典]

2018年、開設から10年を迎え、持ち込まれた種子は100万種を超えた[14]

関連項目

参考文献

出版年の古い順

関連資料

代表執筆者の姓の50音順
  • 石毛光雄「種子を制するものは世界を制す (21世紀の農業<特集>)」『Aff』第26巻第3号、農林統計協会、1995年、26-28頁。ISSN 0387-1452、NAID 40004696655。
  • 蔵前仁一、金子貴一、鎌倉文也、山本高樹「第1章 立入禁止エリア(スバールバル世界種子貯蔵庫(ノルウェー);ボディ・ファーム(アメリカ)ほか)」『世界の辺境案内 : 観光ガイドではたどりつけない!? "世界の果て"の歩き方』、洋泉社、2015年。ISBN 9784800307002

脚注

注釈

  1. ^ 国連食糧農業機関 (FAO) の下部機関。
  2. ^ 駐日ノルウェー王国大使館のポータルによると「(前略) 田邊氏は、過去20数年にわたり、野生の稲の自生地保存を提唱し、その作品を通じて訴えてきました。昨年、種子庫プロジェクトの推進に関わってきたGlobal Crops Diversity Trust(世界作物多様性トラスト)が本部を置く国際連合食糧農業機関(FAO、ローマ)に、野生の稲の種子を表現した9mの大作を寄贈しています。(改行)今回種子貯蔵庫に寄贈されるのは、"THE SEED 2009 - MOMI IN SITU CONSERVATION” と名づけられたステンレススチールの長さ1.2m、重さ6kgの鋳造作品です。寄贈作品は種子貯蔵庫の中の壁に飾られ (以下略)」たという[11]。引用文中のFAO本部に寄贈された作品は「MOMI」(籾) [12]

出典

  1. ^ a b 人類の終末に備える種子バンク、水没の危機…食糧生産支配で莫大な利益狙う多国籍組織 p2ビジネスジャーナル公式ホームページ
  2. ^ 『地球最後の日のための種子』2010年8月、[要ページ番号]頁。ISBN 9784163731506全国書誌番号:21822956  ベント・スコウマンの伝記と周辺、原タイトル: “The Viking in the wheat field”。
  3. ^ Bazilchuk 2006, p. 38-39.
  4. ^ Filipino farmer honored in 'Noah's Ark' opening” (英語). 2009年10月25日閲覧。 開所式に招かれたフィリピン人の農業者。
  5. ^ “Doomsday vault begins deep freeze” (英語). BBC News Online. (2007年11月16日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/7097052.stm 2009年10月25日閲覧。  人類最後の日の貯蔵庫、超低温保存を開始。
  6. ^ “'Doomsday' vault design unveiled” (英語). BBC News Online. (2007年2月9日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/sci/tech/6335899.stm 2009年10月25日閲覧。  「最後の日」貯蔵庫の設計を発表 。
  7. ^ a b 人類の終末に備える種子バンク、水没の危機…食糧生産支配で莫大な利益狙う多国籍組織 p3 ビジネスジャーナル公式ホームページ
  8. ^ a b Faults in the vault: not everyone is celebrating Svalbard” (英語). GRAIN (2008年2月26日). 2017年1月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年10月25日閲覧。 種子貯蔵庫の趣旨に不満 (GREEN 財団)。
  9. ^ ノルウェー|世界種子貯蔵庫をNGOが警戒 -”. INPS International Press Syndicate - JAPAN. 2019年12月13日閲覧。
  10. ^ 6. The Global Seed Vault - TIME's Best Inventions of 2008 -”. TIME. 2013年10月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年10月25日閲覧。
  11. ^ 駐日ノルウェー王国大使館 (2009年10月3日). “日本人彫刻家の作品が種子貯蔵庫へ”. The Norway Portal - ノルウェーと日本 | News | 美術/工芸/写真. Norwegian Ministry of Foreign Affairs. 2015年10月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年12月13日閲覧。
  12. ^ 野村太郎. “カミナリ削りによる田辺光彰の籾 | Rice Seeds Formed by Lightning”. www.portwave.gr.jp. 2019年12月13日閲覧。
  13. ^ 共同通信 (2010年5月10日). “47ランキング |「種子バンク」が50万種突破 運用2年、世界最大に”. Press Net Japan Co., Ltd.. 2010年5月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年10月25日閲覧。
  14. ^ 「ノアの箱舟」 開設10年 貯蔵種子100万種突破 ノルウェー”. AFP (2018年2月27日). 2020年2月26日閲覧。

外部リンク

座標: 北緯78度14分09秒 東経15度29分29秒 / 北緯78.23583度 東経15.49139度 / 78.23583; 15.49139