ジフェニルジスルフィド (diphenyl disulfide) は、有機硫黄化合物 でジスルフィド のひとつ。省略して Ph2 S2 とも書かれる。無色の結晶で、有機合成化学 で用いられる最も有名なジスルフィドの一つである。チオフェノール が不純物として微量含まれるのが不快臭の原因である。水 には溶けない。
合成と分子構造
ジフェニルジスルフィドは通常、チオフェノール の酸化 でヨウ化水素 と共に作られる。
2
PhSH
+
I
2
⟶
Ph
2
S
2
+
2
HI
{\displaystyle {\ce {{2PhSH}+ {I2}-> {Ph2S2}+ 2HI}}}
また、過酸化水素も酸化剤として用いられる[ 1] 。しかし、ジフェニルジスルフィド自体が安価であり、チオフェノールが不快臭を持つため実験室で合成されることはほとんどない。
反応
ジフェニルジスルフィドは有機合成化学においてフェニルチオ基 (PhS-) の供給源として用いられる[ 2] 。典型的な反応ではエノラート を経由して、フェニルチオ基で置換されたカルボニル化合物 を与える。
RC
(
O
)
CHLiR
′
+
Ph
2
S
2
⟶
RC
(
O
)
CH
(
SPh
)
R
′
+
LiSPh
{\displaystyle {\ce {{RC(O)CHLiR'}+ Ph2S2 -> {RC(O)CH(SPh)R'}+ LiSPh}}}
還元
ジフェニルジスルフィドはジスルフィド特有の還元反応を受ける。
Ph
2
S
2
+
2
M
⟶
2
MSPh
(
M
=
Li
,
Na
,
K
)
{\displaystyle {\ce {{Ph2S2}+ 2M -> 2 MSPh (M = Li, Na, K)}}}
水素化ホウ素ナトリウム や水素化トリエチルホウ素リチウム (スーパーヒドリド®)のようなヒドリド試薬もまた還元剤 として用いられる。
チオラート塩の PhSM は、求核剤 PhS- の供給源である。ほとんどのハロゲン化アルキル はこれによって、スルフィド (チオエーテル)に転化する。また、水素化 するとチオフェノールが得られる。
PhSM
+
HCl
⟶
HSPh
+
MCl
{\displaystyle {\ce {{PhSM}+ HCl -> {HSPh}+ MCl}}}
塩素化
ジフェニルジスルフィドは塩素 と反応して、塩化フェニルスルフェニル PhSCl を与える。この化学種の単離は難しい。
酸化
メタノール 中でジフェニルジスルフィドを酢酸鉛(IV) で酸化 するとスルフィナイトエステル PhS(O)OMe を与える[ 3] 。
出典
^ Ravikumar,K. S.; Kesavan, V.; Crousse, B.; Bonnet-Delpon, D.; Bégué, J.-P. (2003). "Mild and Selective Oxidation of Sulfur Compounds in Trifluoroethanol: Diphenyl Disulfide and Methyl Phenyl Sulfoxide" . Organic Syntheses (英語). 80 : 184.
^ Byers, J. H. "Diphenyl Disulfide" in Encyclopedia of Reagents for Organic Synthesis (Ed: L. Paquette) 2004, J. Wiley & Sons, New York. DOI: 10.1002/047084289.
^ Field, L.; Locke, J. M. (1973). "Methyl Benzenesulfinate" . Organic Syntheses (英語). ; Collective Volume , vol. 5, p. 723