ケヌズ語 (ケヌズご、Kenuz)またはクヌーズ・ヌビア語 (クヌーズ・ヌビアご、英 : Kunuz Nubian )、ヌビア語ケヌズ方言 (ヌビアごケヌズほうげん)、メトキ語 [ 2] (メトキご、Mattokki)とはエジプト 南部のコム・オンボ 近郊などで話されているヌビア諸語 の一つである[ 1] 。
分類
Lewis et al. (2015) ではヌビア諸語はナイル・サハラ語族 東スーダン語派 (英語版 ) の下に位置付けられ、ケヌズ語はドンゴラウィ語 (英語版 ) (別名: Andaandi、Dongola、Dongolese)とは異なる言語であるとされている。一方Hammarström et al. (2016) ではヌビア諸語は語族 扱いとされている上、ケヌズ語とドンゴラウィ語は一つの言語とされている。
音韻論
子音
p は後に無声閉鎖音か無声摩擦音が続く場合のみb の異音 として現れる[ 5] 。また位置によってはj の異音として[cc][ 5] 、n の異音としてŋ [ 6] 、s の異音としてz が現れる場合がある[ 7] 。
母音
母音 は五種類だが、以下の通り長短の区別が存在する[ 8] 。
前舌
中舌
後舌
短
長
短
長
短
長
高
i
iː
u
uː
中
e
eː
o
oː
低
a
aː
強勢
強勢 は基本的に最後から二番目の音節 に置かれる[ 9] が、長母音のある節には必ず強勢が置かれ[ 10] 、また語末に強勢のある二音節語が存在する[ 10] といった例外も見られる。
文法
数
単数と複数の区別が存在する[ 11] 。複数形を表す二種類の接尾辞 のうち-i は語根が子音終わりの場合に、-cci は語根が母音終わりの際に用いられる[ 11] 。
例:
id 〈男〉 : idi 〈男たち〉[ 11]
wel 〈犬〉 : weli 〈犬たち〉[ 11]
格
名詞や名詞句および代名詞 には主格 、対格 、属格 の三種類の格変化が存在する[ 12] 。
主格および対格
接辞 などの形態素 が一切つかない状態で主格である事を表す[ 12] 。
対格を表す接尾辞は大別すると-ki か-gi の二種類に分けられる[ 4] 。語根が/l/ , /m/ , /n/ , /w/ , /y/ の場合には-gi 、母音で終わる場合には長母音化の後に-g が接続される[ 13] 。それ以外の場合は-ki の型が用いられるが、子音の種類によっては-ti や-ci という異形をとる[ 4] 。
例:
id 〈男は〉 : itti {id-ki } 〈男を〉[ 4]
idi 〈男たちは〉 : idi:g 〈男たちを〉[ 14]
wel 〈犬が〉 : welgi 〈犬を〉[ 13]
属格
属格を表す接尾辞は-na もしくは-n である[ 15] 。語順は「所有者-非修飾名詞」となる[ 16] 。
例:
id 〈男は〉 : idna ka 〈男の家〉[ 15]
-n は前後のいずれかが母音である場合に用いられる[ 15] 。また後に続く子音が/m/ 、/f/、/s/ 、/š/、/h/ のいずれかである場合、-n はその子音に同化 する[ 17] 。
代名詞
独立代名詞の主格形は以下の表の通りであり、これらも名詞同様に格変化し得る[ 18] 。
指示代名詞 は名詞類の前に置かれる[ 19] 。
例:
in id 〈この男〉; man id 〈あの男〉[ 20]
形容詞
形容詞 は名詞類の後ろに続く[ 21] 。
例:
動詞
動詞は語根に接辞をつけることにより形成される[ 23] 。動詞には接頭辞がつくパターン、複合語となるパターン、接尾辞がつくパターンの三種類が存在するが、接頭辞がつくパターンは他二つと比べると種類は少なめである[ 23] 。接頭辞には進行 を表すa- や未来時制 を表すbi- が存在する[ 23] 。
また、受益者格 (英語版 ) を表す接辞も存在する。-de:n- と-tir- の二種類のうち前者は話し手が利益の受け手となった場合に、後者は話者以外の他人が利益の受け手となる場合に用いられる[ 24] 。
例:
alle-de:n -s-u - 「私のために(~を)直してくれた 」
(グロス: 直す-受益者 -過去-三人称単数)
alle-tir -s-i - 「他人のために(~を)直してあげた 」
(グロス: 直す-受益者 -過去-一人称単数)
なお-de:n- のn は後続する子音が/s/ 、/m/ である場合に[ 24] 、-tir- のt は直前の子音が/s/ 、/š/、/c/ である場合にそれぞれ同じ音へと同化する[ 25] 。
語順
文の語順はSOV型 である[ 26] [ 27] 。
例:
id ay-gi ba:b-ki alle-de:n-s-u. - 「男は私のために扉を修理してくれた。」[ 28]
脚注
^ a b c d e f g h Lewis et al. (2015).
^ 大塚(2000)。
^ Abdel-Hafiz (1988:12).
^ a b c d Abdel-Hafiz (1988:91).
^ a b Abdel-Hafiz (1988:14).
^ Abdel-Hafiz (1988:14-15).
^ Abdel-Hafiz (1988:15).
^ Abdel-Hafiz (1988:17).
^ Abdel-Hafiz (1988:21).
^ a b Abdel-Hafiz (1988:22).
^ a b c d Abdel-Hafiz (1988:80).
^ a b Abdel-Hafiz (1988:90).
^ a b Abdel-Hafiz (1988:92).
^ Abdel-Hafiz (1988:93).
^ a b c Abdel-Hafiz (1988:94).
^ Abdel-Hafiz (1988:205).
^ Abdel-Hafiz (1988:95).
^ Abdel-Hafiz (1988:88).
^ Abdel-Hafiz (1988:205-206).
^ Abdel-Hafiz (1988:206).
^ Abdel-Hafiz (1988:205,207)
^ Abdel-Hafiz (1988:207).
^ a b c Abdel-Hafiz (1988:104).
^ a b Abdel-Hafiz (1988:112).
^ Abdel-Hafiz (1988:113).
^ Abdel-Hafiz (1988:201).
^ Dryer (2013).
^ Abdel-Hafiz (1988:114).
参考文献
Abdel-Hafiz, Ahmed Sokarno (1988). A Reference Grammar of Kunuz Nubian . State University of New York at Buffalo. http://www.sfu.ca/~gerdts/teaching.htm
Dryer, Matthew S. (2013) "Feature 81A: Order of Subject, Object and Verb ". In: Dryer, Matthew S.; Haspelmath, Martin, eds. The World Atlas of Language Structures Online . Leipzig: Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology. http://wals.info/
Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Kenuzi-Dongola” . Glottolog 2.7 . Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/kenu1236
"Mattokki ." In Lewis, M. Paul; Simons, Gary F.; Fennig, Charles D., eds. (2015). Ethnologue: Languages of the World (18th ed.). Dallas, Texas: SIL International.
大塚和夫 「ケヌズ」 綾部恒雄 監修『世界民族事典』弘文堂、2000年。ISBN 4-335-56096-6
外部リンク