クチビロカイマン (学名 :Caiman latirostris ) は、 アリゲーター科 に分類されるワニ の一種。クチヒロカイマン 、マルハナカイマン とも呼ばれる[ 4] 。カイマン亜科 ではクロカイマン に次ぐ大きさで、アリゲーター科ではアメリカアリゲーター とクロカイマンに次いで3番目に大きい。南米東部および中部に分布し、河川や湖沼、湿地など、幅広い環境に生息する。
分類
種小名は「平たい嘴」を表し、吻部の形状に由来する[ 4] 。メガネカイマン とパラグアイカイマン とともに、カイマン属を構成する。カイマン属には絶滅した化石種が最大8種知られている。カイマン亜科の現存する6種の1つである。他の現存するカイマンとの関係は、DNAを用いた系統発生研究に基づく以下の系統樹 で表される[ 5] 。
2亜種が知られているが、亜種を認めない意見もある。亜種名は中井(2023)に従う[ 4] 。
チャコクチビロカイマン Caiman latirostris chacoensis Freiberg & Carvalho, 1965
ブラジルクチビロカイマン (基亜種) Caiman latirostris latirostris (Daudin, 1802)
分布と生息地
ボリビア 、ブラジル 南東部、パラグアイ のパンタナル 、アルゼンチン 北部、ウルグアイ にかけて、南アメリカ の東部および中央部に分布する[ 2] 。チャコクチビロカイマンはパラナ川 、パラグアイ川 流域に多く分布する[ 4] 。主に氾濫原 、沼地 、湿地 、汽水のマングローブ林 、川 、湖 、池 に生息し、止水や比較的流れの遅い水域を好む[ 6] 。ため池、放棄されたストック・タンク 、運河 や側溝 など、人工の水域も利用する[ 7] 。
形態
骨格
成体は全長2-2.5mに成長し、大型の雄は3.5mに達することもある[ 6] [ 8] 。飼育下では体重23-65kgに達する[ 9] [ 10] 。2.6mの大型雄の体重は約80kgであった[ 11] 。体色は明るいオリーブグリーンで、少数の個体は顔に斑点がある。高地など気温の低い場所の個体群は、熱を吸収しやすくするために暗色になる傾向がある。幼体は黄褐色から茶褐色で、黒褐色の帯が入る[ 4] 。名前の由来にもなった幅広い吻が特徴である[ 7] 。幅広い吻は湿地に密生した植物をかき分けるのに適応しており、餌を探しながら密生した植物の一部を飲み込む[ 12] 。
生態と行動
陸に上がった個体
変温動物 であり、体温は外部環境に依存する。体温が上昇すると心拍数が増加し、体温が下がると心拍数が減少する[ 13] 。太陽の熱は皮膚から血液に吸収され、体温を高く保つ。心拍数が増加すると、吸収された熱がより速く体全体に伝わる。空気が冷たくなると、心拍数を高く保つ必要がなくなる[ 13] 。若い個体は天敵を避けるために隠れ場所を見つけるが、この行動は年齢を重ねるにつれて減少する[ 14] 。
食性
幼体は主に甲虫 やクモ などの小型無脊椎動物 を捕食する。若い個体は貝殻を顎で砕くことを学び、カメ やリンゴガイ科 (英語版 ) などの貝類といった、より大きく殻を持つ獲物を食べるようになる[ 7] 。成長に伴って獲物のサイズは大きくなる傾向にある。若い成体は主に無脊椎動物 を捕食するが、より高齢の個体は食事における小型哺乳類 、鳥類 、大型魚類 、両生類 、爬虫類 の量が増える[ 12] [ 14] 。
飼育下の個体がヒトデカズラ の果実 を食べる様子が記録されているが、テグーなど雑食性 の爬虫類と一緒に飼育されていたためか、純粋な摂食行動によるものなのかは不明である[ 15] 。その後の研究で本種やその近縁種は雑食性であり、植物種子の散布に重要な役割を果たしていると結論づけられた[ 16] 。
繁殖と成長
幼体
産卵数は18-50個で、1つの巣から最大129個の卵が見つかったこともあり、複数回の産卵によるものと推定される[ 6] 。巣は二層になっており、その間にはわずかな温度差がある。これにより雌雄の比率がより均等になる[ 7] 。性染色体 を持たず、代わりに温度によって性別が決定する。32℃以上では雄に成長し、31℃以下では雌に成長する[ 17] 。母親のエストロゲン 量や、ストレスの量が影響を与える可能性もある。同じ温度で育てられた巣でも性比が異なる場合があり、性決定に関わる温度以外の要因があることを示唆している[ 18] 。約70日で孵化し、母親は幼体の孵化を手伝い、しばらく保護を行うが、雌雄両方や、雄のみが保護を行った例もある。5-7年で性成熟 し、寿命は30-40年と推定されている[ 4] 。
人との関わり
基本的に人を襲うことは無い[ 4] 。皮は肌触りがなめらかで、革製品として非常に価値があったため、1940年代には大規模な狩猟が始まった。これは本種にとって大きな脅威となったが、各国で狩猟が禁止されたことで、個体数は回復した[ 6] 。現在は生息地の破壊が脅威となっており[ 6] 、森林伐採と汚染物質の流出が主要な要因である[ 7] 。
脚注
注釈
^ アルゼンチン、ブラジルの個体群はワシントン条約附属書II
出典
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外部リンク
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