カロリス盆地
カロリス盆地 (Caloris Basin) は、水星に現存する最大の衝突地形である[注 1]。盆地の直径は約1550 kmに達し、これは水星の直径の1/4よりも大きい。およそ36億年前に直径100 km程度の小惑星の衝突によって作られたと考えられている。名前の"カロリス"は、ラテン語で「熱」を意味する。 観測マリナー10号による観測カロリス盆地は巨大なクレーターであり、さらに水星には厚い大気も無いため、水星を周回する衛星軌道に投入した探査機などからであれば、非常に目立つ地形である。しかし、水星は太陽から大きく離れる事がないため、地球からの観測は困難である[注 2]。このため、水星の表面の巨大な地形なのにもかかわらず、カロリス盆地の存在をヒトが知ったのは、1974年にアメリカの惑星探査機であるマリナー10号が、水星にフライバイした際であった。ただ、フライバイによる観測だったため、マリナー10号によって撮影できたのは、水星表面の半分にも満たず、カロリス盆地は全景が写っていなかった。それでも、この写真からカロリス盆地の直径は、恐らく1300 km程度であろうと推定した[2]。 メッセンジャーによる観測カロリス盆地と周辺地形水星の表面全体は、2008年1月14日に水星でスイングバイを行ったメッセンジャーにより、初めて撮影された。メッセンジャーは2011年3月18日に水星を周回する軌道への投入に成功し、世界で初めて水星を周回する軌道に入った探査機となった[3]。水星の周回軌道に入ったメッセンジャーによって、水星の表面の詳細な観測が行えたため、カロリス盆地の正確な大きさは、約1550 kmであったと判明した[2]。カロリス盆地の構造は、比較的平坦な円形の平原の周囲を、複数のクレーター壁が同心円状に取り巻いた、多重リング構造をしている。なお、同じように多重リング構造を持った巨大クレーターとしては、地球の衛星の月の東の海や、木星の衛星の1つであるカリストのバルハラクレーターなどが挙げられる。 カロリス盆地の中央には放射状の溝が見られ、パンテオンにちなんで「パンテオン地溝帯」と命名された。カロリス盆地の周囲には、高さ2000 mのカロリス山脈も存在する。水星に小惑星が衝突しカロリス盆地の原型が生成した際に、カロリス山脈が形成されたと推定されている[4]。なお、カロリス盆地は小惑星の衝突によってできたクレーターが、水星から噴き出した熔岩によって底部が埋められ、盆地の底が作られたと考えられている。 対蹠点への影響水星のカロリス盆地に対して対蹠点に当たる地点付近には、山と谷が入り乱れた複雑な地形が存在する。これはカロリス盆地を作った隕石衝突によって発生した衝撃波が、衝突地点から水星の内部や表面を伝搬し、ちょうど水星の裏側で合流して、そのエネルギーによって地面が歪んだために生成した地形だと考えられており、対蹠点地形と呼ばれている。 もしもカロリス盆地を作った小惑星が、もう少し大きかったら、水星は粉々になっていただろうと推測される[4]。 脚注注釈出典
関連項目
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