エルゴチオネイン
(2S )-3-(2-Sulfanylidene-2,3-dihydro-1H -imidazol-4-yl)-2-(trimethylazaniumyl)propanoate
別称
L -Ergothioneine; (+)-Ergothioneine; Thiasine; Sympectothion; Ergothionine; Erythrothioneine; Thiolhistidinebetaine
識別情報
CAS登録番号
497-30-3
PubChem
5351619
ChemSpider
4508619
UNII
BDZ3DQM98W
KEGG
C05570
ChEBI
C[N+](C)(C)C(CC1=CNC(=S)N1)C(=O)[O-]
S=C1N\C(=C/N1)C[C@@H](C([O-])=O)[N+](C)(C)C
InChI=1S/C9H15N3O2S/c1-12(2,3)7(8(13)14)4-6-5-10-9(15)11-6/h5,7H,4H2,1-3H3,(H2-,10,11,13,14,15)/t7-/m0/s1
Key: SSISHJJTAXXQAX-ZETCQYMHSA-N
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Key: SSISHJJTAXXQAX-ZETCQYMHBA
特性
化学式
C9 H15 N3 O2 S
モル質量
229.30 g/mol
外観
白色の固体
融点
275 - 277 °C , 271 K, -192 °F
特記なき場合、データは常温 (25 °C )・常圧 (100 kPa) におけるものである。
エルゴチオネイン (英語 : Ergothioneine )は、希少なアミノ酸 誘導体 の一種で、強力な抗酸化作用 のある天然物質。1909年にM.C.Tanret によって、ライ麦角菌 (学名:Claviceps purpurea )から単離され発見された。水溶性物質で、熱やph安定性に優れている。120℃、60分の条件でもほとんど影響を受けない。また酸性(pH2)~アルカリ性(pH12)条件でもほとんど影響を受けない特徴がある。
生合成
エルゴチオネインは多くの生物に存在しているが、動植物自身では生合成ができず、キノコ などの担子菌類 と一部の細菌 のみしか生合成できない。人間も自身で生合成することができないため、食べ物からエルゴチオネインを摂取することで、脳、肝臓、腎臓、赤血球、皮膚などに貯蔵している。
エルゴチオネインを多く含む食品としてキノコ類がある。たもぎ茸 に特に多く含まれておりシイタケ やヒラタケ 等にもに含まれる。
エルゴチオネインを細胞内に取り込むトランスポーター(OCTN1)が発見されたことで、生体内でのエルゴチオネインの役割が注目されている[ 1] 。
生理作用
エルゴチオネインには強力な活性酸素 消去作用がある。生体内の抗酸化物質であるグルタチオン と比較しても3~30倍も高い[ 2] 。ヒドロキシルラジカルや一重項酸素といった強力な活性酸素も素早く消去し[ 3] 、その力はビタミンC やL-システイン などの他の抗酸化成分よりも強いといわれている。生体利用率(バイオアベイラビリティ)に優れ体内で持続的な抗酸化能力を発揮する[ 4] 。生鮮エビやカニなどの黒変色防止や魚肉・食肉の酸化防止剤 、養殖魚の血合い 褐変防止などへの利用も研究されている[ 5] 。
水溶性物質にもかかわらず血液脳関門 を通過し脳内の中枢神経に蓄えられることが報告されている[ 6] 。記憶力の向上、認知症 、アルツハイマー病 、うつ病 、パーキンソン病 の改善など脳神経や中枢神経に対する効果が示唆されている[ 7] [ 8] 。シンガポール大学医学部では認知症患者207人(うちアルツハイマー型認知症160人、脳血管性認知症 47人)、いわゆる軽度認知機能障害者201人、健常者88人の合計496人を対象にした研究が行われ、認知症患者は血液中のエルゴチオネイン濃度が低いことが報告された。また軽度認知障害 (MCI)でも血液中のエルゴチオネイン濃度の低下が認められた。エルゴチオネインが認知機能障害に関連していること、脳の酸化ストレス悪化によって神経変性や脳血管疾患との関連性が指摘されている[ 9] 。2021年には株式会社スリービーが生産した独自品種による北海道産タモギタケ 由来(品種:えぞの霞晴れ33号)のエルゴチオネインを1日あたり5mg含有する日本初の機能性表示食品 が消費者庁に受理された[ 10] 。
エルゴチオネインは目の水晶体 や皮膚 にも多く存在する。特に表皮細胞に多く蓄積されていることから紫外線による酸化や遺伝子損傷を抑制していると考えられている[ 11] [ 12] 。
エルゴチオネインのトランスポーター(OCTN1)はリューマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎 、クローン病 [ 13] 、自己免疫性甲状腺疾患など様々な疾患と関係していることから、エルゴチオネインには生体の恒常性を維持する何らかの重要役割があることが示唆されている。
エルゴチオネインの研究としては東洋大学、株式会社スリービー(北海道)、株式会社エル・エスコーポレーション、金沢大学等が進めている。タモギタケの生産者としては北海道南幌町のスリービーなどが栽培等を行っている[要出典 ] 。
脚注
^ エルゴチオネイン物語 金沢大学
^ “An in vitro study on the free radical scavenging capacity of ergothioneine: comparison with
reduced glutathione, uric acid and trolox”. Biomed Pharmacother. 60(8) : 453-457. (Sep 2006). doi :10.1016/j.biopha.2006.07.015 . PMID 16930933 .
^ “L-Ergothioneine scavenges superoxide and singlet oxygen and suppresses TNF-alpha and MMP-1 expression in UV-irradiated human dermal fibroblasts”. J.cosmet.sci 56(1) : 17-27. (Jan 2005). PMID 15744438 .
^ https://www.nature.com/articles/cdd2009163 Paul, B., Snyder, S. (2010). The unusual amino acid L-ergothioneine is a physiologic cytoprotectant. Cell Death Differ17, 1134-1140.
^ エルゴチオネインの食品の酸化的変色防止効果 東京海洋大学
^ タモギタケ含有成分エルゴチオネインの摂取は記憶学習能力を向上させる 株式会社エル・エスコーポレーション
^ 渡邉憲和 ほか「健常者および軽度認知障害者に対するエルゴチオネイン含有食品の認知機能改善効果 」『薬理と治療』第48巻第4号、2020年、685-697頁。 ( 要購読契約)
^ Ergothioneine Prevents Neuronal Cell Death Caused by the Neurotoxin 6-Hydroxydopamine Cells 2024, 13, 230.
^ Low Plasma ergothioneine levels are associated with neurodegeneration and cerebrovascular disease in dementia Free Radic Biol Med., Dec 2021; Vol.177(201-211)
^ 記憶の番人(機能性表示食品)
^ Nelli G. Markova, Nevena Karaman-Jurukovska, Kelly K. Dong, Niusha Damaghi, Kenneth A. Smiles, Daniel B. Yarosh (2009). “Skin cells and tissue are capable of using l-ergothioneine as an integral component of their antioxidant defense system” . Free Radical Biology and Medicine 46 (8): 1168-1176. doi :10.1016/j.freeradbiomed.2009.01.021 . ISSN 0891-5849 . https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0891584909000537 .
^ “Ergothioneine, recnet developments” . Redox Biology 42 . (June 2021). doi :10.1016/j.redox.2021.101868 . PMC 8113028 . PMID 33558182 . https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8113028/ .
^ Peltekova VD, Wintle RF, Rubin LA, Amos CI, Huang Q, Gu X, Newman B, Van Oene M, Cescon D, Greenberg G, Griffiths AM, St George-Hyslop PH, Siminovitch KA. "Functional variants of OCTN cation transporter genes are associated with Crohn disease. " Nat Genet 36(5): 471-475, 2004
外部リンク