エバーソン対教育委員会事件(エバーソンたいきょういくいいんかいじけん、英語: Everson v. Board of Education, 330 U.S. 1 (1947)[1][2] )とは、アメリカ合衆国の権利章典に定められた「国教樹立禁止条項(英語版) (Establishment Clause) 」を州法に適用させたアメリカ合衆国最高裁判所の画期的な判決である。
この判決以前、多くの州政府はある特定の宗派に対して立法上または事実上の特権を付与していたにもかかわらず、アメリカ合衆国憲法修正第1条の文言である「連邦議会は国教の樹立を助長する法律を制定してはならない。("Congress shall make no law respecting an establishment of religion") 」[3]の制約は、連邦政府にのみ課されていた[4]。この事件はアメリカ合衆国憲法修正第14条のデュー・プロセス条項(英語版)に基づいて州を規制し、修正第1条の国教樹立禁止条項を州に組み込ませた(英語版)連邦最高裁の最初の事件である。エバーソン裁判における本判決は、現代の国教樹立禁止規制の解釈や適用における転換点となった[5]。
ニュージャージー州法は、通学のために利用される交通費に対する助成金を地方学校区に交付しており、その中には私立学校も含まれていた。この政策によって助成金を受けていた私立学校の内、その96%は教区経営のカトリック学校であった。ユーイング・タウンシップ(英語版)の納税者であるアーチ・R・エバーソン (Arch R. Everson) は訴訟を提起し、次の通りに申し立てを行った。宗教系学校に登校した結果によって児童および親が負担した費用に対し、助成金を交付する制度を通じた宗教に対する間接的な助成は、ニュージャージー州憲法(英語版)およびアメリカ合衆国憲法修正第1条に違反していると主張した。ニュージャージー州控訴裁判所(英語版)、州最高裁において原告が敗訴した後、エバーソンは単に合衆国憲法上の問題について合衆国最高裁判所に上告した。1946年11月20日、口頭弁論が開始された。
「修正第1条の『国教樹立禁止条項 ('establishment of religion' clause) 』が意味するところは少なくとも次の通りである。国家ないし連邦政府のいずれも教会を樹立することは出来ない。また、〔国家または連邦政府は〕単一の宗教または全ての宗教を助成し、単一の宗教を他の宗教に優先させる法律を制定してはならないのであって、〔国家または連邦政府は〕個人の意思に反して教会に行くように、または教会に行かないように個人に強いらせ、影響を与え、または、いかなる宗教を信仰し、または信仰しないことを告白するよう強いることはできない。いかなる個人も宗教の信仰または不信仰を抱き、告白すること、または教会に出席または欠席することを理由として罰則を科されてはならない。またいかなる税金も、その金額の多寡に関わらず、いかに呼称され、または宗教を教え、実践するために採られたいかなる形態の宗教的活動や施設を支援する目的のために課税されてはならない。国家または連邦政府は、公然または秘密に、いかなる宗教的組織や団体の業務に参加してはならず、その逆も然りである。ジェファーソンの言葉を借りれば、法律による宗教の樹立を禁止する当該条項は『国家と教会を分離する壁』を築くことを意図したものである。」 (330 U.S. 1, 15-16.)
エバーソン判決後の数十年間の間、修正第1条に関する似たような事件が裁判所において溢れかえっていた。合衆国憲法の修正条項の文中にある国境樹立禁止条項と自由活動条項の二者を充足させる政府の二重の義務をどのように均衡させべきか立法者と裁判官が奮闘したとき、エバーソン判決の中の「分離の壁」というトーマス・ジェファーソンの隠喩は、彼らによって引き合いに出されることになった。エバーソン判決において少数意見を表明したラトリッジ判事は憲法は「宗教に対するいかなる形態の援助および支援 (every form of public aid or support for religion) 」を禁じていると主張し、判事らはかような問題を巡って意見が分かれることになった[14]。
脚注
^Text of Everson v. Board of Education, 330 U.S. 1 (1947) is available from: FindlawJustia
^Larson, Edward John (2003). Trial and error: the American controversy over creation and evolution (3, revised ed.). Oxford University Press US. ISBN9780195154702
^Pfeffer, Leo (1967) Church, state, and freedom Beacon Press, Boston, Massachusetts, pages 545-549
^MacDougall, Curtis Daniel (1952) Understanding public opinion: A guide for newspapermen and newspaper readers Macmillan, New York, page 532
^Holscher, Kathleen A. (2008) Habits in the classroom: A court case regarding Catholic sisters in New Mexico Doctoral Dissertation, Department of Religion, Princeton University, page iii, Abstract and Introduction from Scribd
Hamburger, Philip (2002年). Separation of church and state. Harvard University Press. ISBN978-0-674-00734-5。
Harvard Law School Forum (1951年). "Public aid to parochial education; a transcript of a discussion on a vital issue, presented by the Harvard Law School Forum. Speakers: George H. Williams [and others] Moderator: George C. Homans. Held at Rindge Tech School, Cambridge, Mass". Cambridge Press. p. 56.
McWhirter, Darien A. (1994年). The Separation of Church and State. Oryx.
Paulsen, Michael A. (1986年). "Religion, Equality, and the Constitution: An Equal Protection Approach to Establishment Clause Adjudication". Notre Dame Law Review. pp. 311–317.
Schultz, Jeffrey D.; West, John G. Jr.; Maclean, Iain, eds. (1999). "Disestablishment"; "Hugo L. Black". Encyclopedia of Religion in American Politics. Phoenix, Arizona: Oryx. p. 390.
Witte, John Jr. (2000年). Religion and the American Constitutional Experiment: Essential Rights and Liberties. Boulder, CO: Westview Press. p. 164. ISBN978-0-8133-4231-3。