イリシッド
イリシッド(Illithid)、あるいはマインド・フレイヤー(Mind Flayer)は、テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(D&D)に登場する架空の魔族である。イリシッドが種族名、マインド・フレイヤーが通称で丁度ドラウがダーク・エルフと呼ばれるようなもの。 マインド・フレイヤーとは“精神を鞭打つ者”という意味であり、その名の通り精神攻撃の超能力を使う異世界からの邪悪な来訪者である。彼らは複数のキャンペーン・セッティング(D&Dのゲーム世界)において、アンダーダークのような地下世界の湿った洞窟や地下都市に棲息し、他の知性的な種族を超能力で奴隷にしたり、あるいは脳を摘出し食してしまうことで恐れられている。 元ネタマインド・フレイヤーをデザインしたのはゲイリー・ガイギャックスである。彼はブライアン・ラムレイのクトゥルフ神話小説、『地を穿つ魔(1974)』(『タイタス・クロウ・サーガ』の第1作)のカバーから着想を得たとコメントしている[1]。故に、邪神シュド=メルおよび彼の種族クトーニアンが、イリシッドの元ネタである。 共通項として
などが挙げられる。 またイリシッドという種族名はホメーロスのイーリアス(Iliad)の言葉遊びである。 認可イリシッド(マインド・フレイヤー)はウィザーズ・オブ・ザ・コースト社が提唱するオープンゲームライセンスの“製品の独自性(Product Identity)”によって保護されており、オープンソースとして使用できない[2][3]。ネオセリッド(後述)は免れており、『パスファインダーRPG』に登場している。
掲載の経緯マインド・フレイヤー=イリシッドはD&Dの最初期から登場している。 オリジナルD&D(1974-1976)マインド・フレイヤーが初めて登場したのは、TSR社の公式ニュースレター『The Strategic Review』1号(1975年春)で、そこでは、「獲物を捕食するための4本の触手を口元に生やした、人間に似た非常に賢い生物」と紹介された。このニュースレターで、マインド・フレイヤーが4本の触手で相手を捕らえ脳を喰らうこと、5フィートに届く衝撃波で相手に精神異常、激怒、混乱、昏睡および死を与えるといった現在まで継承されている特徴が設定されている[4]。 製品版では3番目のサプリメント『Eldritch Wizardry』(1976、未訳)にて、「脳を貫き、喰らうべく引きずり出すための触手を持った、非常に賢い、(秩序にして悪の)人型の生物」と紹介された。 AD&D 第1版(1977-1988)『アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ』(AD&D)第1版においてマインド・フレイヤーは『Monster Manual』(1977、未訳)に登場。「日光を嫌う地下で遭遇する種族」とされ、『Dungeoneer's Survival Guide 』(1986、未訳)で公式にアンダーダークが設定されると様々な作品世界に登場するようになる。 『DRAGON』78号(1983年10月)[5]には、ロジャー・E・ムーアによる“マインド・フレイヤーの生態”が掲載された。
そしてギスヤンキが敵対しており、併せてギスヤンキがギスゼライを裏切り者としてマインド・フレイヤーと同じほどに憎悪していることについて語られている。 しかしながら、今日ではこれらの設定の多くは使われていない。 AD&D 第2版(1989-1999)『モンスター・コンペンディウムⅠ』(1989)に登場し、『Monstrous Manual』(1993、未訳)に再掲載された。『モンスター・コンぺンディウムⅠ』にて社会と生態が語られ、共同体の中心には死亡したイリシッドの脳が集められた“古き脳”とそれが浸る脳漿のプールがあり、死後も活動し続けるその集合意識が共同体を支配しているとされた。 『DRAGON』150号(1989年10月)には、Stephen Innissの寄稿によるイリシッドによって完全に破壊された世界を扱った "The Sunset World" 特集が掲載。同号でのモンスター紹介コラム"Dragon's Bestiary"には同じ作者によるイリシッドと似た生態を持つ怪物“Illithidae”が紹介された。 特定のモンスター種族をソースブック+シナリオ3部作で描くサプリメント『Monstrous Arcana』シリーズにて、ビホルダー・サフアグンに続きイリシッドが取り上げられた。 ソースブック『The Illithiad』(1998、未訳)ではマインド・フレイヤーが人型生物を乗っ取って変異する生態や頭蓋を穿つ酵素など今日に至る特徴が示された。種族の歴史は先の『The Astromundi Cluster』の設定を一部引き継いでおり、独自のアイテムには"テンタクル・イクステンシャン(Tentacle Extension 触手延長器)"などの装備品と共にノーチロイドも掲載されている。“古き脳”は共同体を率いるクリーチャー“エルダー・ブレイン(Elder Brain)”に、Vampire Mind Flayersは”Illithid Vampires”または”Vampiric Mind Flayers”と改められた。その他、エルダー・ブレインが自身の組織から作り出す分身“ブレイン・ゴーレム(Brain Golem)”、遺棄されたイリシッドの幼生が幼体成熟した“ネオセリッド(Neothelid)”や、イリシッドがローパーに寄生した“Urophion”が登場した。また僕として"インテレクト・ディヴァウラー(Intellect Devourer)"をイリシッドが創り出すことも設定され、これも今日まで採用されている。 シナリオ『A Darkness Gathering』(1998、未訳)に続く『Masters of Eternal Night』(1998、未訳)では後にギスヤンキ・ギスゼライに至る種族が登場し、『Dawn of the Overmind』(1998、未訳)ではスペルジャマー世界が舞台となる。 D&D 第3版(2000-2002)、D&D 第3.5版(2003-2007)D&D第3版では『モンスター・マニュアル』(2000)に登場し、第3.5版の『モンスター・マニュアル』(2003)に再掲載された。3.5版の『Monster Manual V』(2007、未訳)には宇宙にある異世界”スーン(Thoon)”に旅立ち、彼の地のエルダー・ブレインに支配された“Mind Flayers of Thoon”が登場した。 『モンスター・マニュアルⅢ』(2003)ではイリシッドが3体がかりで作り出す”ヴォイドマインド・クリーチャー(Voidmind Creature)”が登場した。生物ならほとんどあらゆるカテゴリーやサイズのものを変質させることが可能で、頭蓋に開けた4つの穴から生命維持に必要な部位以外の脳髄を食べ、代わりにサイオニックなエネルギーを込めた緑色の透明な粘液を詰め栓をしてある。この粘液は元の生物と同等以上の知性を与え、場合によっては独自に外部に露出し、触手としてふるまう。頭部の4つの穴以外外見の変わらないヴォイドマインド・クリーチャーは自身を生み出した3体のイリシッドに束縛され、5マイル以内なら視聴覚も共有される為スパイとして最適な一方、主である3体が滅ぼされると独自の自我に目覚める。 『アンダーダーク』(2003)では多くの項目にイリシッドが登場している。「上級クラス」の項に武力による戦闘に特化した”イリシッド・ボディ・テイマー”が、「装備品と魔法のアイテム」の項にテンタクル・イクステンシャンの他、イリシッドが自身の肉体から作り他者に外科手術で生来の器官と交換・移植する”エクストラクティング・テンタクル(Extracting Tentacle 摘出用触手)”など”イリシッド移植臓器”が紹介されている。「モンスター」の項ではイリシッドが他のクリーチャーに寄生したハーフ・イリシッドの一例としてビホルダーとの融合体“マインドウィットネス(Mindwitness)”が登場した。また、この本でエルダー・ブレインとその特殊能力の一つとしてブレイン・ゴーレムが再登場した。「地理」の項ではイリシッドの地底王国”チチトル”が紹介され、その歴史にウリサリッドに関する記述がある。チチトルの住民ではイリシリッチの”ツァーレインジ”と他種族の脳を食べなくなった変わり者の”ナーコーザーグ”が登場した。 『サイオニクス・ハンドブック第3.5版』(2004)ではイリシッドのサイオニック版が登場した。また、この本でネオセリッドが再登場し、イリシッドの神”イルセンシーン”も紹介されている。「サイオニック・アーティファクト」の項ではサイオニック能力を有する個体・物品・集団を抵抗の余地なく分解してしまう円環”アニュラス(環状体)”、失われたイリシッドの帝都の名を冠した”スタッフ・オヴ・エインシャント・ペナンブラ(往昔なるペナンブラの杖)”が登場している。 異世界からの来訪者を扱った『Lords of Madness: The Book of Aberrations』(2005、未訳)にはイリシッドを紹介する章があり、ウリサリッド、Illithidae、Urophionが再登場した。 また、ゲームにおける善の定義を著した『高貴なる行ないの書』(2006)では改心し正義の使徒となったイリシッド”サクアルム”が登場した。サクアルムのみ、「女性」と明記されている(後述の「生態」参照)。 D&D 第4版(2008-)D&D第4版では、『モンスター・マニュアル』(2008)、『モンスター・マニュアルⅢ』(2009)に登場している。モンスター・マニュアルⅢではエルダー・ブレインも登場している。また、同族によって肉体改造された“スーン・ハルク(Thoon Hulk)”が登場した。この版で登場する個体は以下の通りである。
また、エッセンシャルズのモンスター集、『Monster Vault』(2010、未訳)では以下の個体が登場している。
シナリオ『恐怖の墓所』(2010)の付録:追加モンスターにアルフーン・リッチの名称でアルフーンが登場した。 サプリメント『ダンジョン・サバイバル・ハンドブック 未知への挑戦』(原題『Into the Unknown:Dungeon Survival Handbook』(2012))の第2章に概要が、第3章にそのダンジョンの傾向と特徴が記載された。マインド・フレイヤーは高い建築物を好み、外観は正確な螺旋形で球根状の塔やねじれた通路が付きだしている。壁には目や口などが埋め込まれ常にサイオニックの力がうなりをあげている生体建造物とでも呼ぶべき代物で、サイオニックによって開閉する関門や精神的情報が封じられテレパシーで閲覧できるクリスタル書庫などがある。これらが集まった都市には囚人をつないだ塔や分析や研究の為の闘技場、そしてエルダー・ブレインの水槽などがあるとされる。 D&D 第5版(2014-)D&D第5版では、『モンスター・マニュアル』(2014)に登場している。また選択ルールでマインド・フレイヤーの秘術使いが登場した。『ヴォーロのモンスター見聞録』(2016)ではイリシッドの生態や社会、ノーチロイドが再び紹介され、都市の総力で既存の生物をサイオニック的に改造した”マインド・フレイヤーの隷属者”、イリシッドと隷属者にしか使えない”マインド・ラッシュ(Mind lash 精神の鞭)"など独自のアイテムや隷属者に新たな能力を非魔法的に与える”マインド・フレイヤーの強化改造装備”が新たに登場した。「モンスター図鑑」のマインド・フレイヤーの項でアルフーン、ウリサリッド、エルダー・ブレインが再登場し、マインドウィットネス、ネオセリッドも登場。選択ルールでマインド・フレイヤーのサイオニック使いとアルフーンから分けられたイリシリッチが登場した。 全体にこれまでの版の設定をまとめて整理、再設定されている。 肉体的特徴イリシッドの身長、体重は人間とほぼ同じである。筋力など身体的能力値も常人とほぼ同等だが遭遇する(何らかの任務を遂行中=一人前の)個体のHDは8以上で、『アンダーダーク』での「その他のキャラクター種族」では有効キャラクター・レベル(相当するキャラクターのレベル)は15とされる。 先天的なサイキック能力と魔法耐性を備え、同族・異種族を問わずテレパシーで会話する。 肌は藤色で、粘液で覆われている[8]。
四肢の指は3本もしくは4本(『The Illithiad』以前の第2版では3本)である[9]。 イリシッドの触手は物体に密着しつかむことができる。陸貝の腹足状なのか、吸盤を備えるかはイラスト等により異なる(『アンダーダーク』のイリシッド移植臓器の一つである"グラビング・テンタクル(Grabbing Tentacle つかむ触手)"は「吸盤のような物で覆われている」)。先端の腺からは肉と骨を分解する酵素を分泌、獲物の頭蓋を溶かしかき分け脳を露出させる(『The Illithiad』『アンダーダーク』のテンタクル・イクステンシャンは「イリシッドが分泌する、肉を溶かす酵素を先端まで通すため」「細い導管がこの装置全体を通っている」)。この酵素は外気に触れると破壊される為、頭蓋の穿孔には触手が密着している必要があり、またイリシッドの生死を問わずこの酵素を採取・貯蓄することはできない。 2版までは命中しても直接ダメージを与えないが、3版以降は先端で肉を溶かすのかダメージを与える。 5版では更につかんだ目標を朦朧状態にする、クリオス文字の思念を読み取る(後述)などサイキック的な器官でもある。また先端を口腔に差し込み舌と声帯の代わりにして発声できる。 生態イリシッドは温血両生類である。雌雄同体であり、すべてのイリシッドが一生に2回ほど卵を産む(大体20年間隔)。卵は1ヶ月ほどで孵化、イリシッドの幼生は成体同様に4本の触手があるオタマジャクシのような姿をしている。幼生はエルダー・ブレインの浸るプールの中で10年ほど成育されるが、生き延びるのは1000匹に1匹程度である[9][10]。 『The Illithiad』以降、幼生が成体になるために“脳変成(原文はCeremorphosis Ceremony+Metamorphosisの造語)”という過程を経る。10年程で十分に成長した幼生は献体として無抵抗化された人型生物の主に外耳孔や鼻腔から犠牲者の頭蓋に入り込む。頭蓋内腔に達した幼生は脳を食い尽くし脳幹に癒着、新たな脳に変化する。これに伴い犠牲者の肉体も変化してゆき、数日後には成体のイリシッドになる。 成体の能力が開花し一人前となるまでにおよそ20年ほどかかり、その間は共同体の中で過ごす[11]。 マインド・フレイヤーという別称の由来である強力な精神波「マインド・ブラスト」は範囲内の抵抗に失敗した知的生物を主に朦朧状態にし、5版では更に[精神]ダメージを与える。この他版によって差異があるが魅了・空中浮遊・次元移動などのサイキックを習得している。 イリシッドの食料は人型生物の脳である。第2版では月に1つの脳を食べないと弱ってゆき、脳を食べない状態が4か月続くと餓死するとされるが、『アンダーダーク』に登場する変わり者ナーコーザーグは脳を食べない生活を続けているのでイリシッドにとって脳が唯一の食料なのかははっきりしない(ナーコーザーグが生に執着していない可能性もある)。第5版では酵素やホルモンなど物質要素=栄養よりも犠牲者の記憶の断片を含む精神的エネルギーの方が重要で、死ぬ直前の強い感情はイリシッドにとって「味わい」の違いとなる。物質としての脳よりそれが宿す精神の方が重要であることの証左として、イリシッドの文化性はその個体が食してきた脳の精神性の影響を受ける。ゴブリンを主食としてきた個体よりエルフを主食としてきた個体の方が知能は同等でも文化的に洗練されている[12]。 イリシッドの寿命はおよそ115~135年、平均125年ほどである。イリシッドの精神は死後も脳に宿っているとされ、死亡した個体の脳は共同体により摘出・回収、エルダー・ブレインの浸るプールの中に漬け込まれる。そしてエルダー・ブレインと融合し集団意識となる[9](後述の「社会」参照)。 第5版では幼生は専用のプールで保護・育成される為、エルダー・ブレインのプールが破壊されても生き延びる(=ネオセリッドが生まれる)可能性が高い。また準備ができ次第孵化したばかりの幼生でも脳変成に用いられる。一方で幼生のまま生かし続けることはなく、10cm程度にまで成長した幼生は殺されて他の幼生やエルダー・ブレインの食料とされる。脳変成は1週間かかり、新たに誕生したマインド・フレイヤーは犠牲者の記憶をかすかに持っていることがある[12]。 眷属エルダー・ブレイン(Elder Brain 祖脳) エルダー・ブレイン・ドラゴン(Elder Brain Dragon 祖脳竜) ウリサリッド(Ulitharid) アルフーン(Alhoon) ネオセリッド(Neothelid) 版権はマインド・フレイヤー及びイリシッドという名前とタコのような頭部の人型種族という外見、超能力や魔法を操り脳を取り出す能力などにあるため前述の通りネオセリッドは免れており、『パスファインダーRPG』に登場している。 マインドウィットネス(Mindwitness) 起源・歴史イリシッドの起源は謎に包まれている。 第2版のサプリメント『The Illithiad』では、イリシッドは"彼方の領域"という既知の次元界とは完全に無縁な不可解な世界から来たのではないかと示唆している。人類の歴史の数千年前に彼らは何処から出現し、数多の世界に広まっていったことを、最古の種族による最古の古代史書の幾つかに(他の種族に関する言及のないものにさえ)イリシッドに関する言及があることが明示している[10]。 いずれにせよ、イリシッドは遠い昔、他の知的生物を奴隷にすることで広大な帝国を築いていた。一説には”Nihilath”という名の帝国の版図は物質世界から数多の次元界にまで及び、その勢力はデヴィルとデーモンが帝国と取引するために両者の誕生以来続く闘争(流血戦争)を休止させるほどであったという。第2版における帝国の中枢“ペナンブラ(Penumbra)”は太陽をその直径程の長さの円筒に収め、円筒壁面中央から両面に日の射さない大地が乗った半径1億マイルに及ぶ円盤が広がるという巨大な人工天体であった。 だが、帝国は滅んだ。 イリシッドの主要な奴隷、そして兵力は冒涜的な科学技術によって世代を重ねて改造された人型戦闘種族であった。気の遠くなる年月の果てに名前すら忘れられた彼らはしかし、主人が発する精神支配への抵抗力を徐々に高め、時折反抗するようになる。そして遂に"ギス"という女戦士が翻した反旗に種族全体が立ち上がった。自らを"ギス族"と称した彼らの反乱は瞬く間に全領域に拡大し、帝国は瓦解。物質世界にいて生き残ったイリシッドは地下世界に逃れた。 第5版ではイリシッドの帝国の遺構が発見されていないこと、かくも強大な帝国が僅か1年程で崩壊したという伝説から、帝国はその拠点ごと未来へタイムトラベルしたのではないかという可能性が示唆されている[12]。 異説『The Illithiad』以前のスペルジャマー世界のサプリメント『The Astromundi Cluster』では、イリシッドは"Astromundi"と呼ばれた、今は滅んだ世界を支配していた人間たちが地下深くで変貌したなれの果てであると設定している。 エベロン世界では、狂気の次元界"ゾリアット(Xoriat)"の支配者"デルキール"によって創造されたと明言されている。 活動イリシッドは悪辣な気質と、他の人型生物を超能力で操り、脳を食べるおぞましい行動から地下世界全ての種族から恐れられている。中にはデロのように崇拝をする種族やギスゼライ、ギスヤンキ、ドゥエルガルのように過去に奴隷の身になった経緯から仇敵となった種族もいる。 現在、イリシッドは宇宙の再奪取と永遠の支配の為の研究と実験を繰り返し、その手段を探索している。彼らは文明の力を理解しているので、社会を裏から操ろうとする(例えば音楽によって人型生物の感情を操れる可能性の探求など[12])。イリシッドは地上の定住者が知性を増し魔法と科学技術を進歩させるたびに、彼らの心を徹底的に調査する。イリシッド自身も新たなサイオニック能力の開発に時間を費やしている[11]。一方、仇敵に発見されることを警戒するあまり探索は遅々として進まない。 第3版サプリメント『次元界の書』(2001)の「付録:次元界の例外部分」の一つ「かくありえた宇宙への断層」の記述では、ある次元断層の周囲に数マイルに及ぶ建造物を築いているイリシッドたちがいるとされる。彼らは複数の太陽から汲み上げた強大な魔力を用いてこの次元断層を裏返し、その向こうに確認した「イリシッドの帝国が滅びなかった」宇宙と置き換えようとしている。当然成功していないが、イリシッドの執念深さは無類なのだ。 イリシッドは食料や労働力、験体確保を目的に、地上世界で定期的な奴隷狩りを行う。一般的に、マインド・フレイヤーはポータル(テレポートの門)を作り、遠隔からの精神支配を仕掛けてくる。手に入れた奴隷たちはよく訓練した部下の手によって地下世界へと連行されていく[11]。 社会イリシッドは共同体を作って生活している。来訪者である彼らの都市はコロニーとされ、食料などの確保の必要性から他の人型種族の生活圏の近く(ポータルがあるので物理的な距離ではない)に作られる。5版では主食となる脳によって文化面の影響を受けるため、どの人型種族を獲物にするかで各コロニー間に文化面の差異が生じる[12]。 各コロニーは各々のエルダー・ブレインよって支配されており、交流は乏しい。エルダー・ブレインは支配下の共同体の構成員全員(と有益と判断され保存されている脳)にテレパシーによる情報の共有と命令ができる。この仕組みはそのまま共同体の通信網として機能している。またエルダー・ブレインはその共同体で死んだ全イリシッドの記憶を吸収・保存しているので、前述の通信網と併せてコロニーの住人は現在と過去の共同体の構成員全ての知識を図書館の資料の様に活用できる(エルダー・ブレインは司書として検閲をかけている。また吸収した記憶の持ち主の人格を再現して新たな知識を分析・検討したり構成員に助言を与えることもできる)。イリシッドは死ぬとその脳を摘出され、エルダー・ブレインに同化、共同体の知識となることを通例とする。 イリシッドは一般的にサイオニック能力をアイデンティティの不可欠な要素として好む一方、ウィザードやクレリックの魔法を”サイオニックの歪んだ双子”として忌避し、いずれ消し去ろうと思っている[12]。一部の変わり者が自身の知識欲の為、あるいはエルダー・ブレインの一部となる運命への反抗などの理由から魔法を研究する。こういった共同体を乱すものは多くの場合迫害・追放される(第3.5版ではウィザードの訓練が奨励されているかの記述がある)。 イリシッドの属性は、通常は“秩序にして悪”であり、邪悪でサディスティックな圧制者である。同時に利己主義者であり、常に権力争いに明け暮れ、戦闘で不利になると真っ先に逃亡する[8]。エルダー・ブレインもまた、不利になると情報と引き替えに命乞いをする[16]。一方で共同体に奉仕することを好み、共同作業も進んで行う[8]。死後エルダー・ブレインに同化する通例も自身の知識と技術が永久に共同体に貢献できるという喜びでもある。 クオリス文字通常イリシッドはテレパシーで意思疎通を行うが、筆記の必要を感じた時、彼らは“クオリス”と呼ばれる4本の点線からなる点字のような文字を使う。イリシッドは点線の間隔を触手でなぞることによって文章(5版では更に込められた筆記者の思念)を理解する。 宗教イリシッドが崇拝することがあるのは“秩序にして悪”の上級神格、イルセンシーンである[17]。そのクレリックは共同体に治療の力をもたらす。第2版のプレーンスケープ世界では第2の神格としてマアンゼコリアンという神も崇拝していたが、暗黒と不死の神テネブロウスTenebrous(殺されたオルクスが神格になった姿)に殺された。この一件は第3版以降でもオルクスのエピソードとして採用されている[18]。いずれにせよ、イリシッドは自らを宇宙で最も偉大な種族だと思っているので、イルセンシーンに敬意を示すことは少ない[11]。 スペルジャマー世界ではアストロムンディにおけるイリシッドの神Lugribosskが設定されていた。 各D&D背景世界での固有設定グレイホークでのイリシッドイリシッドは通常、アンダーダークの薄暗い地下世界に棲息している。おそらく、オアリク大陸で最も有名なイリシッドの都市はDra-Mur-Shouである。ここはドラウの拠点から数マイル以内に位置している。ドラウの本拠地、エレルハイ・シンルー(Erelhei-Cinlu)にも有名なマインド・フレイヤーの研究所があり、幾人かのイリシッドが棲んでいる。 ドラゴンランス世界におけるマインド・フレイヤーはYaggol と呼ばれる。 レイヴンロフトでのイリシッドレイヴンロフト世界でのイリシッドはBluetspurと呼ばれ、エルダー・ブレインがダークロードとして領域の支配者となっている。なぜエルダー・ブレインがダークロードになったのかはいずれのレイヴンロフト公式作品の中でも明らかにされていない。 エベロンでのイリシッドエベロン世界のイリシッドは狂気の次元界ゾリアットからの来訪者である。彼らはビホルダーなどとともにゾリアットの支配者デルキールによって創造され、共にエベロンを侵略したが、カイバー(エベロンでのアンダーダーク)に追いやられた。今でもデルキールに従っている一方、ゾリアットへのポータルを再び開くべく独自の活動をしている[19]。 スペルジャマーでのイリシッド後に『The Elder Scrolls IV: Oblivion』のデザイナーとなるケン・ロストンは『DRAGON』154号にて、ビホルダーとマインド・フレイヤーはスペルジャマー世界で銀河系間の脅威として主役を勝ち得、そしてマインド・フレイヤーは全ての知的生命体が家臣か餌食になるように密かに策謀しており、取引相手にいかがわしくも中立的な見せかけを示す社交技術を磨き上げた恐怖の悪しき脳喰らいであると評した[20]。 その他の創作におけるイリシッド前述の通り、イリシッドはD&Dの版権物である。そのため、D&D公式の派生作品でない限り、ビホルダー同様によく似たモンスターとして登場している。 D&D以外のテーブルトークRPGD&Dのシステムで現代物を扱うこのゲームにはイリシッドの現代版が登場している。 サプリメント『モンスター事典』には”頭脳殺し”[22]と”鞭叩き”[23]というタコに似た頭部を持つ人型の怪物が登場する。 『迷宮キングダム』第1版では“ココログライ/Brain Eater”の名でイリシッドによく似たモンスターが登場する[24]。 第2版およびサプリメント、『大殺階域』では“脳漿喰らい/Mind Flayer”に改名されている[25]。迷宮キングダムにおけるマインド・フレイヤーは百万迷宮(迷宮キングダムの舞台)の地下深くに巣くう“深人”の支配者階級で、特徴もD&Dのイリシッドによく似ている。 幻想と魔法の世界オリジン出身のエネミーとして”脳喰らい”というイリシッドに酷似した黄泉還り(アンデッド)のモンスターが登場する。タコの如き触手を備えた頭部を持ち、その触手で脳を啜る彼らは、生者への途方もない憎悪を行動理念とする。 サプリメント『妖怪伝奇』に競争心・嫉妬心から生まれた記憶と能力を奪う妖怪”脳みそ喰らい”が登場する。人間大の五本脚のタコのような姿で頭部(タコの胴部)は大脳に似ており、脚の付け根に一つずつ計五つの眼玉を持つ。脚の中央の嘴で人間の頭を砕き、脳を食べて犠牲者の記憶と能力を自分のものにする。 宇宙からの来訪者エトランゼの一つ、情報を求めて人や魔物に寄生し同化または共生するキャラクター”寄生体”が異形化した”脳漿喰らい/ブレインイーター”が登場する。手っ取り早く情報を得るため物理的に脳髄を喰って記憶を奪う。イラストでは大脳に単眼と無数の触手を備えた姿。 『雪の魔女の洞窟』前述のブレイン・スレイヤーが”頭脳殺し”表記で登場している。 『城塞都市カーレ』前述のフレイヤーが”鞭叩き”表記で登場している。 『モンスター事典』文庫版はもともと『ファイティング・ファンタジー』シリーズのモンスターのデータ集であった。 コンピュータゲームAD&D第2版(舞台はフォーゴトン・レルム)をコンピュータRPG化したこのシリーズでは、”マインドフレイヤー”表記でビホルダー共々そのままの姿で登場する。遠距離からサイキック・マインド・ブラスト(麻痺の全体魔法攻撃扱い)をかけてくる為、即時全滅もあり得る。何故か取扱説明書などのイラストでは獣じみた頭部で描かれている。 AD&D第2版及び第5版(舞台はフォーゴトン・レルム)をコンピュータRPG化したこのシリーズでは、”マインド・フレイヤー”表記(ドロウ(ドラウ)はイリシッドと呼称)でビホルダー共々そのままの姿、そのままの能力で眷属[26]と共に登場する。 D&D第3.5版(舞台はエベロン)をコンピュータRPG化したこのシリーズでは、”マインド・フレイヤー”としてそのまま登場している。 『ウルティマ』シリーズ”マインドウィッパー(Mind Whipper)”という名でUltima I: The First Age of Darknessに登場している。「知性を下げる」という特殊攻撃を持つ。 『ファイナルファンタジー』シリーズ”マインドフレイア(Ⅰ・Ⅴ)””マインドフレア(Ⅳ・Ⅻ・XIV・XV)””ソウルフレア(Ⅺ)”の名で登場。頭部がタコではなくイカであり、XVではローブの様な脚もイカ。共通して全体麻痺攻撃のマインドブラストを使い、Ⅰでは通常攻撃に即死の追加効果がある。Ⅴではマインドブラスト成功時に「のうみそを すいとられた!」とメッセージが表示、これはプレイヤーが青魔法としてラーニングしても変わらない。 『ウィザードリィ』シリーズ『Wizardry Ⅵ:Bane of the Cosmic Forge(邦題:ウィザードリィVI 禁断の魔筆)』に”マインド・フレイヤー”、不確定名”ぶきみなまほうつかい(EERIE MAGE)”の名前で登場。ボスキャラを含む全キャラクター中最高のINT値を持ち、サイオニック系統の呪文を使ってくる。PC版のグラフィックは頭部が頭足類になっているが、末弥純によるSFC版では人間型になっている(頭髪はない)。 『ウィザードリィエンパイア』シリーズ”マインドフレア”の名とほぼ原典通りの外見で登場している。種族は悪魔。 ”蛸獄吏”というタコのような頭の敵が「塔のラトリア」に登場する。 ”脳喰らい”という敵が登場する。顔の下半分は細かな触手で覆われ、頭頂部からは蛭のような長大な触手が伸びている。 『神撃のバハムート』”フォースマインドフレイア””ミニマインドフレイア”として登場。 『エバークエスト2』”メンタリスト”という名でセイレーンの洞窟などに登場。 D&D世界を扱った拡張セット、『フォーゴトン・レルム探訪』(2021年)にイリシッド(マインド・フレイヤー)は青カードのクリーチャーとして登場している。本作では、通常のイリシッドに加え、小説『ダークエルフ物語』に登場するイリシッドの学者、グラジラックスも青カードの伝説のクリーチャーとして登場している[28]。 『オーバーロード』拷問官ニューロニスト・ペインキルと「至高の四十一人」の一人タブラ・スマラグディナの種族が、水死体の様な体の頭部が6本足のタコの様な姿の”脳喰い(ブレイン・イーター)”である。 メディアの評価イリシッドは『Dungeons & Dragons For Dummies』(2006年、未訳)にて、同書執筆者による「中級レベルのモンスター・ベスト10」の第4位にランクインした。彼らはイリシッドを「典型的な悪の天才」、「完璧な悪の大君主」と評した[29]。 シアトルの週刊誌ザ・ストレンジャーにて、シエナ・マドリッド(Cienna Madrid)記者はイリシッドをD&Dのぞっとする悪魔の1つと紹介した[30]。
脚注
外部リンク
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