アメリカ統合参謀本部最先任下士官
アメリカ統合参謀本部最先任下士官 (アメリカとうごうさんぼうほんぶさいせんにんかしかん、英語: Senior Enlisted Advisor to the Chairman(SEAC))は、国防総省における軍人(制服組)の地位であり、アメリカ軍における最高位の下士官である。統合参謀本部最先任下士官は、下士官の問題についてスポークスマンとして、直接国防総省の高位の要員に進言するために、アメリカ統合参謀本部議長によって任命される。そのため、統合参謀本部議長とともに国防長官の直接的な指揮下にもある。統合参謀本部最先任下士官の主な仕事については、統合参謀本部議長によって異なるが、大抵の場合は国防総省内を移動しながら、下士官教育を監督することや軍人や軍人の家族への連絡業務である。任期については2年であり[2]、統合参謀本部議長と同時であるが、実際はより長く勤務するために再任され、合計4年間勤務する可能性がある[2]。初代の統合参謀本部最先任下士官は陸軍のウィリアム・ゲイニー最上級曹長である。現職者は空軍のラモン・コロン・ロペス最上級曹長であり、2019年12月13日に就任した[2]。 歴史前史伝統的に陸軍や海兵隊の本部、大規模部隊(大隊、連隊、旅団、師団、軍団、軍など)には上級曹長(Sergeant Major)の役職が置かれていた。また海軍や沿岸警備隊の艦艇や潜水艦にも伝統的に先任伍長(艦船ではCommand Master Chief、潜水艦ではChief of the boat)の役職が置かれていたが、海軍作戦部や沿岸警備隊司令部には置かれていなかった。海兵隊は、例外的に1801年から1946年まで最上級曹長の階級にある下士官が務める役職として存在し、その後、廃止されたが1957年5月23日に他の軍種と同等の階級に、海兵隊総司令官の、最先任下士官として海兵隊最先任上級曹長として復活した[3]。 統合参謀本部最先任下士官統合参謀本部最先任下士官は、2005年に当時の統合参謀本部議長ピーター・ペース海兵隊大将の下に設置された。この新たな役職は、軍種を超えた統合作戦に参加している下士官の全ての問題について統合参謀本部議長に直接的に助言する目的で設置された。 ピーター・ペース体制ピーター・ペース大将は、2005年10月1日に陸軍からウィリアム・ゲイニー最上級曹長を初代の統合参謀本部最先任下士官に任命した。ゲイニー最上級曹長は2008年4月25日に退役するまで、統合参謀本部最先任下士官の地位にあった。ゲイニー最上級曹長は、30年を超える軍歴の中で、多くの統合作戦に参加してきた豊富な経験を持っていた。ゲイニー最上級曹長は、統合参謀本部最先任下士官に任命される直前の2003年5月9日から2005年9月30日までは、テキサス州フォート・フッドに所在する陸軍第3軍団の最上級曹長を務めていた。 マイケル・マレン体制ピーター・ペース大将の後任の統合参謀本部議長マイケル・マレン海軍大将は、当時の海軍最上級兵曹長(Master Chief Petty Officer of the Navy)と相談し、統合参謀本部最先任下士官を任命しないこととした。プレスリリースによると、これはピーター・ペース大将に反発する決定ではなく、単にマイケル・マレン大将が統合参謀本部最先任下士官の必要性を感じないためであった。その後、2011年に後任の統合参謀本部議長マーティン・デンプシー陸軍大将が就任すると統合参謀本部最先任下士官の役職が復活した。 マーティン・デンプシー体制マイケル・マレン大将の後任の統合参謀本部議長マーティン・デンプシー陸軍大将は、海兵隊のブライアン・バッタグリア最上級曹長を2代目の統合参謀本部最先任下士官に指名した。バッタグリア最上級曹長は2011年10月1日に、この役職に就任した。バッタグリア最上級曹長は、36年以上の軍歴を有し、海兵隊の様々なレベルの部隊で戦闘配置や下士官の人事を担当してきた。バッタグリア最上級曹長は、2015年12月11日まで統合参謀本部最先任下士官を務めた。 ジョセフ・ダンフォード体制マーティン・デンプシー大将の後任の統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード海兵隊大将は、陸軍のジョン・トラックセル最上級曹長を3代目の統合参謀本部最先任下士官に指名した。トラックセル最上級曹長は、2015年12月11日から2019年12月13日まで統合参謀本部最先任下士官を務めた。 マーク・ミリー体制ジョセフ・ダンフォード大将の後任の統合参謀本部議長マーク・ミリー陸軍大将は、空軍のラモン・コロン・ロペス最上級曹長を4代目の統合参謀本部最先任下士官に指名した。ロペス最上級曹長は、2019年12月13日から統合参謀本部最先任下士官を務めている。 最先任下士官の一覧2022年5月現在の各軍種における最先任下士官の一覧は、以下のとおりである。
任務と責任統合参謀本部最先任下士官の権限は、統合参謀本部議長が持つ権限の全てに及ぶ。また、統合参謀本部最先任下士官は、アメリカ軍の全ての参謀総長等(陸軍参謀総長、海兵隊総司令官、海軍作戦部長、空軍参謀総長、宇宙軍作戦部長、沿岸警備隊長官、州兵総局長)のスポークスマンでもある。場合によっては、参謀総長等や文官、他国の軍隊の参謀総長等とミーティングを実施している下士官や他の最先任下士官のスポークスマンとなることもある。
徽章と階級章徽章陸軍から就任した統合参謀本部最先任下士官は、統合参謀本部議長補佐官の徽章をモチーフ(補佐官の徽章の上に乗った鷲を除いた部分。)とした特徴的な徽章を、直径が約1インチの金色の真ちゅう製の台座を使用し、通常は兵科徽章を着ける制服の襟の部分に着ける。さらには同じ徽章は、通常は部隊徽章を着ける制服の肩の部分に着けるとともに、ベレー帽、ギャリソンキャップ、プルオーバーセーターにも着ける[4]。こちらの装着方法は陸軍最先任上級曹長(Sergeant Major of the Army)の徽章と同じように金色の真ちゅう製の台座を使用する。襟の部分に着ける徽章の装着方法は陸軍の下士官の兵科徽章と同様の仕組みになっており、陸軍最先任上級曹長(Sergeant Major of the Army)の徽章とも同様である。 階級章2019年12月9日、統合参謀本部最先任下士官専用の階級章が発表され、その当時の在職者と将来の在職者は、以後その階級章を使用することになった。階級章のデザインは、その統合参謀本部最先任下士官が所属する軍種の最先任下士官(E-9)の階級章が基本となっているが、その階級章の中央に4つの星で囲まれた3本の矢を持った鷲がデザインされている。ウィリアム・ゲイニー最上級曹長とブライアン・バッタグリア最上級曹長の在職期間は、この階級章が発表されるよりも前だったため、それぞれの最上級曹長の階級を使用している[5]。2019年末までに陸軍用と空軍用の2つの階級章が発表された[6]。更に2020年中に海兵隊用の階級章も発表されている。以上の統合参謀本部最先任下士官の階級章は、アメリカ陸軍紋章研究所によってデザインされた[7]。海軍用の階級章は、海軍が独自にデザインの考案、調整を行い2022年に発表された[7]。2022年には宇宙軍が統合参謀本部最先任下士官の階級章のデザイン開発を開始している[8]。 地位と儀礼旗統合参謀本部最先任下士官(Senior Enlisted Advisor to the Chairman)、陸軍最先任上級曹長(Sergeant Major of the Army)、空軍最先任上級曹長(Chief Master Sergeant of the Air Force)、宇宙軍最先任上級曹長(Chief Master Sergeant of the Space Force)は、アメリカ軍において独自の旗の使用を許されている大将(General/Admiral)以外では唯一の軍人である[12]。統合参謀本部最先任下士官の旗は、統合参謀本部議長のデザインに基づいたものであり、陸軍最先任上級曹長(Sergeant Major of the Army)の旗は、陸軍参謀総長のデザインに基づいたものである。統合参謀本部最先任下士官の旗は、中央のディスク部分を除いて青と白の二色から構成されており、右上の青と左下の白を分ける対角線が旗全体を通っている。 儀礼統合参謀本部最先任下士官は、その特有の職務と地位にかかわらず下士官であるため、少尉以上の士官や准士官に敬意を表する義務がある。しかしながら、一般的に軍歴の短い下級士官は統合参謀本部最先任下士官に敬意を表している。そして、他の最先任下士官と同様に、統合参謀本部最先任下士官は式典等における席次、宿舎、駐車場、送迎等の面で全ての中将より優先されている。 給与統合参謀本部最先任下士官は、他の7名の最先任下士官と同様に給与等級はE-9に属する。しかしながら、合衆国法典第37編第1009条 37 U.S.C. § 1009表第8に基づき統合参謀本部最先任下士官は、その在職期間や本人の軍歴にかかわらず月額$9,109.50(年額$109,314.00)に固定される。また、この基本給の他に通常の非課税手当と、統合参謀本部最先任下士官と他の7名の最先任下士官は合衆国法典第37編第414条 37 U.S.C. § 414(C)に基づき年間$2,000の特別の非課税手当を受給する権利がある。なお、仮に統合参謀本部最先任下士官に任命されずE-9の下士官として勤続した場合、軍歴40年目で給与は月額$8,752.50まで昇給することができる[13] 。 歴代の統合参謀本部最先任下士官
その他関連項目脚注
参考文献 |