アイル山地
アイル山地(アイルさんち、フランス語: Le massif de l'Aïr)は、サハラのエコリージョンに属するニジェールの山地。北緯17度に位置し、70,000km2の面積を持つ。この山地は標高500 - 900mの辺りが平に開けていて、花崗岩質の山頂が点在している。アイル山地の一部はテネレの一部とともに、「アイル・テネレ自然保護区」としてユネスコの世界遺産に登録されている。 地理ニジェールの北西に位置し、南北方向に300km、東西方向には200kmに伸びる(上から見て)三角形の山地である。標高はしばしば900mを越え、最高峰はバグザーヌ山脈(les monts Bagzane)のアンドゥカ=ン=タグレス山(le mont Indoukat-n-Taglès、標高2022m)である。 南の斜面はチギディ断崖(la falaise de Tiguidit)の窪地に嵌り込んでおり、東の斜面はテネレに接している。西にはすぐにタラク平原(la plaine du Talak)、アザワク地方(Azawak)、タメスナ地方(Tamesna)などが開けている。 アイル山地の中心都市はアガデズ(Agadez)であり、これはトゥアレグの居留地である。そこに暮らす人々は、ヤギやヒトコブラクダに生計の基盤が置かれており、それらから肉や乳、あるいは地元の工芸に使う皮革などを手に入れる。 定住を選んだトゥアレグの中には、ティミア、タベロ、ウデラス、イフェルアーヌなどの村々で暮らすものたちもいる。彼らは農業を営み、タマネギ、トマト、ジャガイモ、ニンニクなどの野菜類や、トウモロコシ、小麦、木に生る果実類(オレンジ、グレープフルーツ、ザクロなど)を栽培している。また、ヤギなども飼っている。これに対し放浪のトゥアレグのキャラバンは、定住のトゥアレグやテネレのオアシスの人々と、塩、綿織物、ナツメヤシなどの交易を行っている。 一帯の小川、オアシス、沼地はチーター、バーバリーシープ、ドルカスガゼル、アダックス、アオサギ、ウタオオタカ、エジプトハゲワシ、アフリカワシミミズク、シュバシコウなどの生息地で、2005年にラムサール条約登録地となった[1]。 気候標高の高さによって、アイル山地は降水量の少なさ(年間平均75 - 160mm)にもかかわらず、周辺の砂漠地帯に比べると、緑に恵まれている。とりわけ雨季にあたる8月、9月はそうである。 植物相植物相は主にサハラ=スーダン型(type sahélo-soudanienne)で、平原のものとは異なっているが、様々な植物を見ることが出来る。標高500 - 900m地帯ではサルバドラ・ペルシカ(Salvadora persica)など何種類かの木々が存在し、900mをこえるとアカシア属が見られる。そして1500mをこえると、オリーブの木やイトスギなどが生えている。 動物相アイルには40種類の哺乳類、165種類の鳥類、18種類の爬虫類、1種類の両生類が生息している。そのうちの数種は生存が脅かされていると考えられ、9種類が絶滅危惧種に指定されている。例えばアダックスやダチョウは今でもアイルに生息するが、密猟や旱魃で脅かされている。 有蹄動物アイルには、生存の脅かされているサハラの有名な有蹄類がいる。1990年には、12000頭のドルカスガゼル、170頭のダマガゼル、3500頭のバーバリーシープがいると見積もられており、特にバーバリシープはニジェール国内の生息数の70%とされた。 ドルカスガゼルとバーバリーシープの数は自然保護区の設立以降増加しているようだが、ダマガゼルは密猟などによって減少傾向にある。アダックスの数は1979年以降漸減し、15頭にまで減ってしまった。シロオリックスに至っては1983年以降目撃されておらず、絶滅したと考えられている。 肉食獣ライオンやリカオンといったサヘルの大型動物は、20世紀初頭には狩猟や毒殺によって滅ぼされていったが、いくつかの種は残った。なおも15-20頭のチーター、数頭のハイエナがサルなどを餌にして暮らしている。 小型肉食獣の数はまだ十分にいる。たとえばこの地域ではキンイロジャッカル、フェネック、カラカル、スナネコなどが確認されている。 サル山地の中央部には、おそらく近親交配によると思われる70頭のアヌビスヒヒや500頭のパタスモンキーの孤立した集団が生息している。これらの集団は、厳密にはこの地域固有の亜種である。 小型哺乳類山地ではケープハイラックス、穴を掘るネズミ目、コウモリ、ヤマアラシなどが観測されている。 鳥類サケイ科やゴシキドリ科、ハト科、ヒバリ科など様々な鳥が生息しており、アカハシコサイチョウなども確認されている。また、アイル山地西部は、アフリカにおけるダチョウの最後の大規模生息地でもあり、1990年には800-2000頭と見積もられていたのだが、2001年にはほとんどが姿を消してしまった。 この辺りは85種類に及ぶ渡り鳥たちも見られる。それらの鳥は越冬する場所に渡る途上で、この地域にも飛来するのである。 爬虫類アイル山地には様々な種類のヘビが生息している。クロクビコブラ、パフアダー、サハラツノクサリヘビなどといった毒蛇類も多い。 洞窟壁画アイル山地は紀元前6000年から紀元1000年頃にわたる洞窟壁画の存在でも知られている。この壁画は、主に尖った石器や金属器(紀元前1200年以降)で、岩を削って描いたものである。最も古い絵が表しているのは、多くの大型哺乳類によって示されているように、この辺りが牧畜に適した地帯だったということである。この地帯の絵では、1999年にダブー(Dabous)で発見され、全世界に知られるようになった5メートルを越すキリンの絵(ダブーのキリン)が有名である。 しかし、紀元前三千年紀中に砂漠化が始まり、トゥアレグも北方からこの地に流入した。その後の絵には、戦車や馬などが描かれた戦いの絵も見られる。 脚注
参考文献以下の文献のうち最初の四点はこの記事初版の翻訳元であるフランス語版の記事に掲げられていたものである。
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