ジョージ・P・ペレケーノス (George P. Pelecanos 、1957年 2月18日 - )は、アメリカ合衆国 の作家。ワシントンD.C. 出身、ギリシャ 系アメリカ人。出生地であるワシントンD.C.を舞台とした推理小説 を多く執筆する。映画やテレビのプロデューサーやテレビの脚本家としても活動しており、HBO の「THE WIRE/ザ・ワイヤー 」を手掛けた。
生い立ち
作家
初期の作品はワシントンD.C.居住のニック・ステファノスというギリシャ人私立探偵の一人称で書かれている。
ステファノスが語り手を務めた初期の4作『硝煙に消える』(原題:A firing Offense )、『友と別れた冬』(原題:Nick's Trip )、"Down by the River Where the Dead Men Go" 、シリーズ外の[ 1] 『野獣よ牙を研げ』(原題:Shoedog )で成功を収めた後、文体をかなり変えて「D.C.カルテット」を展開していった。ジェイムズ・エルロイ の「暗黒のL.A.四部作(L.A.カルテット)」と度々比較される「D.C.カルテット」シリーズは、ワシントンの変化を数十年にわたって描いている。現在は三人称で書いており、主役だったステファノスを脇役とし、犯罪と闘うチーム「ソルト&ペッパー」のディミトリ・カラスとマーカス・クレイを登場させた。
2001年 には、『曇りなき正義』(原題:Right as Rain )の主人公に新たに私立探偵のデレク・ストレンジとテリー・クインを登場させた。2人は、2003年 にガムシュー賞 を受賞した『終わりなき孤独』(原題:Hell to Pay )や、『魂よ眠れ』(原題:Soul Circus )にも登場する。シリーズは「D.C.カルテット」ほどではないものの、ベストセラーとなり著者も高評価を得た。
2004年 に刊行した『変わらぬ哀しみは』(原題:Hard Revolution )では、デレク・ストレンジがD.C.の警官だった若き頃を描いている。また同作では、マイクル・コナリー が2003年 にハリー・ボッシュ・シリーズ の1作『暗く聖なる夜』をCD付きで刊行したのを真似て、ペレケーノスもCDを付けて販売した。
2005年 には『ドラマ・シティ』(原題:Drama City )を刊行。同作では『終わりなき孤独』で始まったドッグファイトを再び取り上げた。ペレケーノス自身も犬を飼っており、ドッグファイトに関する意見を述べている[ 2] 。2006年 に刊行した『夜は終わらない』(原題:The Night Gardener )では、自身をカメオ出演させるなど大きな変化を見せた。
雑誌"Measure of Poison" や"Usual Suspects" や数々のアンソロジーに短編を発表している。『ワシントン・ポスト ・ブック・ワールド』や『ニューヨーク・タイムズ ・ブック・レビュー』などにレビューが寄せられる。
2008年 に刊行した"The Turnaround" では自身のルーツに目を向け、物語は1970年代のギリシャのダイナー(食堂)を舞台に幕を開け、現代へと続いていく。
映画とテレビ
ペレケーノスはHBO 制作のテレビドラマ『THE WIRE/ザ・ワイヤー 』の脚本・プロデュースを務めた。また、ノンフィクション作家や、同作のプロデューサー デイヴィッド・サイモン (英語版 ) と作家ローラ・リップマン らと文学サークルに入っている。サイモンはペレケーノスの作品を読んでサークルに勧誘したが、それまではボルチモア 出身であることを理由に(D.C.が舞台の)彼の作品を読まなかった[ 3] が、リップマンに『明日への契り』(原題:The Sweet Forever )を薦められて読んでから考えを変えた[ 4] 。2人はメリーランド州 シルバースプリング で幼少期を過ごしたこと、メリーランド大学に通っていたこと、アメリカの都市の行く末と黒人貧困層に興味があることなど共通点が多い[ 4] 。サイモンが『THE WIRE/ザ・ワイヤー』のパイロットエピソードを届けたしばらく後に、共通の友人の葬儀で初めて会った[ 4] 。
2002年 に1stシーズンの脚本家としてスタッフの仲間入りし[ 5] 、プロデューサーのサイモンとエド・バーンズによるストーリーを基に第12話「身辺整理」(原題:Cleaning Up )の脚本を担当した[ 6] [ 7] 。2003年 には2ndシーズンのプロデューサーに昇進し[ 8] 、第8話「ダック・アンド・カバー」(原題:Duck and Cover )[ 9] [ 10] 、第11話「悪夢」(原題:Bad Dreams 、サイモンとの共同脚本)[ 11] [ 12] を担当。翌2004年 の3rdシーズンでは脚本家とプロデューサーを兼任し[ 13] 、第4話「ハムステルダム」(原題:Hamsterdam )[ 14] [ 15] 、第11話「落としどころ」(原題:Middle Ground 、サイモンとの共同脚本)[ 16] [ 17] を執筆した。サイモンはペレケーノスとの共同で第9話「スラップ・スティック」(原題:Slapstick )を担当した[ 18] [ 19] 。2人の共同脚本である第11話「落としどころ」はプライムタイム・エミー賞 テレビドラマ部門にノミネートされた[ 20] 。3rdシーズン終了後、小説『夜は終わらない』の執筆に専念するため、プロデューサーを退いた[ 21] 。エリック・オーバーマイヤー (英語版 ) が後任のプロデューサーとなった[ 21] 。
2006年 、4thシーズンでは脚本家としてのみ参加し、第12話「己の恵みを持つ者」(原題:That's Got His Own 、エド・バーンズとの共同脚本)を担当した[ 22] [ 23] 。サイモンは、ペレケーノスがフルタイムで参加できなくなったことは残念だが、『夜は終わらない』は好きだ、とコメントしている[ 21] 。サイモンもまた、自著"Homicide: A Year on the Killing Streets" 執筆のために時間を費やしていた。ペレケーノスら脚本家は2007年度(4thシーズン)の全米脚本家組合賞 とエドガー賞 テレビ部門を受賞した[ 24] [ 25] 。5thシーズンで脚本家として戻り、第9話「最終版」(原題:Late Editions 、サイモンとの共同脚本)を執筆した[ 4] [ 26] [ 27] 。2009年(5thシーズン)、再び全米脚本家組合賞にノミネートされたが、受賞は逃した[ 28] 。
『THE WIRE/ザ・ワイヤー』の終了後は、第二次世界大戦 を描いた『ザ・パシフィック 』に共同プロデューサー兼脚本家として参加した[ 29] 。製作に時間がかかったが、2010年に放送された。ペレケーノスはミシェル・アシュフォード (英語版 ) との共同でパート3を担当した[ 30] 。パート3ではオーストラリアに上陸したアメリカ海兵師団に焦点を置いており、強制退去させられたギリシャ人家族なども登場する[ 30] [ 31] 。このプロジェクトは、フィリピンで従軍していた父ピート・ペレケーノスを見つめ直すチャンスとなった[ 32] 。
2010年 には、サイモンとオーバーマイヤーが制作に携わるHBOニューオーリンズ の新しいドラマ『トレメ』(原題:Treme )に脚本家として参加した。ハリケーン・カトリーナ 罹災後のトレメ の人々の生活を描いた作品である[ 33] 。ペレケーノスは第4話"At the Foot of Canal Street" を担当した。
私生活
2006年 時点で、メリーランド州 シルバースプリング 郊外のワシントンD.C. に[ 35] 妻と3人の子と住んでいる。
作品リスト
小説
#
邦題
原題
刊行年
刊行年月
訳者
レーベル
1
野獣よ牙を研げ
Shoedog
1994年
2003年7月
横山啓明
ハヤカワ・ミステリ文庫
2
ドラマ・シティ
Drama City
2005年
2006年8月
嵯峨静江
ハヤカワ・ミステリ文庫
3
夜は終わらない
The Night Gardener
2006年
2010年12月
横山啓明
ハヤカワ・ポケット・ミステリ
4
The Turnaround
2008年
5
The Way Home
2009年
6
The Cut
2011年
ニック・ステファノス・シリーズ
#
邦題
原題
刊行年
刊行年月
訳者
レーベル
1
硝煙に消える
A Firing Offense
1992年
1997年1月
佐藤耕士
ハヤカワ・ミステリ文庫
2
友と別れた冬
Nick's Trip
1993年
1998年1月
松浦雅之
ハヤカワ・ミステリ文庫
3
Down by the River Where the Dead Men Go
1995年
4
Stefanos Novels: Down By The River, A Firing Offence, Nick's Trip (オムニバス)
2002年
D.C.カルテット
#
邦題
原題
刊行年
刊行年月
訳者
レーベル
1
俺たちの日
The Big Blowdown
1996年
1998年9月
佐藤耕士
ハヤカワ・ミステリ文庫
2
愚か者の誇り
King Suckerman
1997年
1999年7月
松浦雅之
ハヤカワ・ミステリ文庫
3
明日への契り
The Sweet Forever
1998年
1999年9月
佐藤耕士
ハヤカワ・ミステリ文庫
4
生への帰還
Shame the Devil
2000年
2000年9月
佐藤耕士
ハヤカワ・ミステリ文庫
デレク・ストレンジ & テリー・クイン シリーズ
#
邦題
原題
刊行年
刊行年月
訳者
レーベル
1
曇りなき正義
Right as Rain
2001年
2001年11月
佐藤耕士
ハヤカワ・ミステリ文庫
2
終わりなき孤独
Hell to Pay
2002年
2004年8月
佐藤耕士
ハヤカワ・ミステリ文庫
3
魂よ眠れ
Soul Circus
2003年
2006年6月
横山啓明
ハヤカワ・ミステリ文庫
4
変わらぬ哀しみは
Hard Revolution
2004年
2008年3月
横山啓明
ハヤカワ・ミステリ文庫
5
Right as Rain, Hell to Pay, Soul Circus (オムニバス)
2005年
6
What it Was
2012年
編著
D.C. Noir (2006)
Best American Mystery Stories 2008 (2008)
フィルモグラフィ
製作スタッフとして参加した作品
年
邦題
原題
役割
備考
2011年
Treme
コンサルティング・プロデューサー
シーズン2
2010年
ザ・パシフィック
The Pacific
共同プロデューサー
ミニシリーズ
2004年
THE WIRE/ザ・ワイヤー
The Wire
プロデューサー
シーズン3
2003年
プロデューサー
シーズン2
脚本家として参加した作品
年
邦題
原題
エピソードタイトル
2015
BOSCH/ボッシュ
Bosch
シーズン1第4話『茶番」
(原題 "Chapter Four: Fugazi")
2011年
Treme
シーズン2第9話 "What is New Orleans?" [ 36]
2010年
シーズン1第4話 "At the Foot of Canal Street" [ 37]
ザ・パシフィック
The Pacific
パート3 第3話[ 30]
2008年
THE WIRE/ザ・ワイヤー
The Wire
シーズン5第9話「最終版」 (原題:Late Editions [ 26] [ 27]
2006年
シーズン4第12話「己の恵みを持つ者」 (原題:That's Got His Own )[ 22] [ 23]
2004年
シーズン3第11話「落としどころ」 (原題:Middle Ground )[ 16] [ 17]
シーズン3第9話「スラップ・スティック」 (原題:Slapstick [ 18] [ 19]
シーズン3第4話「ハムステルダム」 (原題:Hamsterdam )[ 14] [ 15]
2003年
シーズン2第11話「悪夢」 (原題:Bad Dreams )[ 11] [ 12]
シーズン2第8話「ダック・アンド・カバー」 (原題:Duck and Cover )[ 9] [ 10]
2002年
シーズン1第12話「身辺整理」 (原題:Cleaning Up )[ 6] [ 7]
受賞・ノミネート歴
小説
年
作品
賞
結果
1998年
愚か者の誇り
ゴールド・ダガー賞
ノミネート
1999年
俺たちの日
ファルコン賞
受賞
2001年
曇りなき正義
ゴールド・ダガー賞
ノミネート
ハメット賞
ノミネート
2002年
バリー賞 長編賞
ノミネート
ガムシュー賞 最優秀ミステリ賞
ノミネート
2003年
終わりなき孤独
アンソニー賞 長編賞
ノミネート
バリー賞 長編賞
ノミネート
ディリス賞
ノミネート
ガムシュー賞 最優秀ミステリ賞
受賞
2005年
変わらぬ哀しみは
バリー賞 長編賞
ノミネート
2006年
ドラマ・シティ
エドガー賞 長編賞
ノミネート
2007年
夜は終わらない
バリー賞 長編賞
受賞
ガムシュー賞 最優秀ミステリ賞
ノミネート
2008年
The Turnaround
ハメット賞
受賞
2009年
The Way Home
ハメット賞
ノミネート
2010年
ゴールド・ダガー賞
ノミネート
非英語圏での受賞
2000年 - 『俺たちの日』でドイツ・ミステリ大賞 翻訳作品部門受賞(第2位)
2004年 - 『曇りなき正義』および『明日への契り』でドイツ・ミステリ大賞翻訳作品部門受賞(第2位)
テレビ関連
出典
^ ただし、数人のキャラクターがクロスオーバーで登場している。
^ George Pelecanos. “Dogfighting's Poisonous Politics ”. New Republic. 2007年9月1日 閲覧。 [リンク切れ ]
^ Mary Alice Blackwell. “Fun comes down to 'The Wire' ”. Daily Progress. 2007年6月16日時点のオリジナル よりアーカイブ。2006年9月27日 閲覧。
^ a b c d Margaret Talbot (2007年). “Stealing Life ”. The New Yorker. 2007年10月14日 閲覧。
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^ a b “2009 Writers Guild Awards Television, Radio, News, Promotional Writing, and Graphic Animation Nominees Announced ”. WGA (2008年). 2008年12月12日時点のオリジナル よりアーカイブ。2008年12月12日 閲覧。
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^ a b c Jeremy Podeswa (28 March 2010). "Part 3". The Pacific . シーズン1. Episode 3. HBO。
^ “The Pacific Part 3 - synopsis ”. HBO (2010年). 2010年5月15日 閲覧。
^ “George Pelecanos on Film - The Pacific ”. Hatchett Book Group USA (2010年). 2010年5月15日 閲覧。
^ “Pelcanos on Film - Treme ”. Hatchett Book Group USA (2010年). 2010年5月15日 閲覧。
^ Walker Lamond . “DC Confidential ”. Stop Smiling. 2008年9月21日 閲覧。
^ HBO . “Treme episode "What is New Orleans?" synopsis ”. June 21, 2011 閲覧。
^ HBO . “Treme episode "At the Foot of Canal Street" synopsis ”. May 10, 2010 閲覧。
外部リンク
George Pelecanos' official web site
ジョージ・P・ペレケーノス - IMDb (英語)
Largehearted Boy Book Notes essay by George Pelecanos for Drama City
ジョージ・P・ペレケーノス - Internet Book List (英語)
"Ten Thousand Bullets" interview in City Pages, July 19, 2006
"George Pelecanos on 'The Wire' and D.C. pulp fiction" outtakes from the City Pages interview, July 19, 2006
"Crime Story" article on George Pelecanos, Sunday, July 20, 2008; Page W08, from: http://www.washingtonpost.com
"DC Confidential" The Stop Smiling interview of George Pelecanos, November 21, 2008